贋作における「損傷」分析

シュタイングラバーは、オブジェを観察する要点は、 損傷、用途、年代の組み合わせだと教えてくれた。 「あらゆる損傷、ひっかき傷、打ち傷を見つけだし、心のなかで スケッチすること。つぎに、その傷がいつ、どのようにして ついたのか、説明してみること…

円覚寺の宝冠釈迦如来像、覚書

北鎌倉駅降りてすぐにある、臨済宗の大きな寺院 「円覚寺」を訪問。広い。 建物も鎌倉造りで、質実剛健、直線的な美しさがある。 無駄が一切無い。職人の仕事が匠なのだろう。 それでいながら、厳粛でなく、 アンビエントな雰囲気があたりを包む…とても落ち…

「シャルダン展」鑑賞の覚書

東京駅に隣接した、三菱一号舘美術館へ 「シャルダン展」を観に行く。 ジャン・シメオン・シャルダンの絵画を観るのは初めてだ。 瀟洒な洋館だった三菱一号館の室内に展示されている シャルダンの油彩画は小品が多く、そのほとんどが静物画だった。 解説にも…

「レーピン展」鑑賞の覚書

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されていた 国立トレチャコフ美術館所蔵「レーピン展」を鑑賞。 ロシアの画家イリヤ・レーピンの絵を観るのは始めてだ。 素描が巧く、素早い筆運び。 少ない線で細部まで的確に描きとめる力は見事。 まるでイラストレーショ…

読書の習慣について、覚書

本を読む習慣のない人は、まず「岩波文庫」を読むことを おすすめする。 できるだけたくさん。 岩波文庫は書店で新刊を買ってはいけない。 必ず古書店で物色して買うこと。たいてい300円以下で買える。 が、値段ではなく、「古書店に行く」習慣をつけるた…

「ジョアン・ミロ展」鑑賞の覚書

高知県立美術館で開催されていた 「ジョアン・ミロ展」を鑑賞。 暑い夏の平日だからか、ほとんど人がいない。 200点以上のリトグラフを観る。下手だ。だが「遊び心」に満ちている。 そこが面白く「ひょうげて」いて、まねできない。 いろいろな実験を試み…

オレンジをめぐる交渉

2人の姉妹が、ひとつのオレンジをめぐって口喧嘩をしています。 「半分に分けたら?」と親が言いましたが、2人とも 「ひとつ分が必要なの!」と言って譲りません。 しかし数分後、話し合いの結果、姉妹で無事に 分け合うことができました。 いったい何が起…

「マウリッツハイス美術館展」鑑賞の覚書

上野の東京都美術館で開催されていた 「マウリッツハイス美術館展」を観に行く。オランダの観光美術館のコレクションだけあって、 近世オランダ、フランドル絵画の傑作が展示されていた。レンブラントの作品は10点以上、 ルーベンス、ブリューゲル、フラン…

【美術】贋作、悪徳の芸術

贋作とは、常に芸術につきまとう影、芸術という美徳の存在なくしては 成り立たない悪徳である。なぜなら、人類が、自分たちの歴史、美しさを 描きとめた作品、天才と近づくための作品を所有したいと願う限り、贋作 者は嘲るような気取り笑いを浮かべ、その需…

仮説を立てる力

仮説を立てるときに必要なのは、多彩な知識と経験です。 けれども、そのままでは使えません。自分の知識や経験を 抽象化し、その分野に特化したささいな部分から再びもう少し 抽象度を上げて、それを比喩として使えるようになって はじめて、そこから仮説を…

ヴァレリオ・オルジャティの展覧会

図面や図版といったすべての情報は床に置かれている。 そして模型は樹のように立っているから、会場の中を歩き回っていると、 それらが自然に視界に入ってくる。展覧会という場所で、 人が本当に文章を読みたがっているとは思わない。 本でできることだから…

(半)透明なもの

実際われわれは、光をそれ自体として見ているわけではない。 そうではなくて、何か下にあるもの(委ねられたもの)において 見ているのであり、これが(半)透明なものである。 (半)透明なものは、色を持たないために、それ自体としては もちろん目には見…

影と痕跡と鏡像

絵画(的なるもの)の起源をめぐって、西洋では古くから、 三種の神話が語り伝えられてきた。影と痕跡と鏡像(水鏡)がそれである。 古代ローマの博物学者プリニウスが語るところによると、 戦地に赴く恋人の影をなぞったのが、絵画の起源とされる。一方、キ…

写真、見るためのもの

写真は一人の人間の写す単独の像である。 と同時に、絵画やインスタレーションといった美術内部にとどまる ジャンルとは違い、数多くの機能を社会のなかでになっている。 それが、「写真とは何か」という問いを複雑にするだろう。 記録、伝達、アリバイ、複…

日本写真史観の見直し1

写真は展覧会場に展示して美的価値を享受するためのメディア ではない、という考え方が、かつては支配的だった。写真は本来、 記録性を特性とするメディアであり、複数性を特徴とするのだから、 印刷媒体を通じて広く大衆の眼にふれる社会性でなくてはならず…

光と美術2 ―レオナルド・ダ・ヴィンチのスフマート

レオナルドは『絵画論』の中で、暗い部屋で灯火に照らされた人物を どのように描くべきか説明しているが、夜景画を描いた形跡はない。 彼は、光を強調せずに闇を描いた画家であった。それは、暗さを目的としたものではなく、微妙な光によって立体感や 空間の…

光と美術

光は視覚世界においてはすべての根源である。 目がある事物を認識するとき、形態や色彩といった その事物についての情報は、それを取り巻く光に依存している。さらに光は聖なるものの根源でもあり、多くの文化圏において、 神、真理、理性などの象徴とされた…

大田黒元雄の「写真芸術」

モノクロームの絵を活かすのに最も大切なのが 光と影との対照並びに諧調なのは言ふ迄もない。 事実、写真は光と影の芸術だ。 それに次いで必要なのは構想と構図に対する考へを 発達させることだらう。けれど此れは前に述べた光に 対する問題と違って、美術上…

フランシス・ベーコンの“リアリティー”3

(インタヴュアー)「最期に残るリアリティーとは何ですか。そして、 それは最初に描いた対象とどのようにつながっているのですか。」 (F・ベーコン)「必ずしもつながりがるわけではないのですけれど、 画家は最初にモチーフとなったものと同等のリアリテ…

フランシス・ベーコンの“リアリティー”2

(インタヴュアー)「これまでの話から判断して、結局あなたにとって 一番大切なのは、作品がリアリティーを直接的に表現しているかどうか ではなく、無関係なものを並べたときや、あるものをミスマッチな背景の 前に描いたときに生じる緊張関係であるように…

フランシス・ベーコンの“リアリティー”1

似たような作品がさまざまな方法で繰り返し作られ、 それらに囲まれた私たちは芸術漬けになっています。 そのため飽和点に達してしまい、リアリティーを生み出す 新しいイメージや方法を求めています。結局、人間は創造を欲するのであって、いつまでも過去を…

証明、精神の眼

証明は、定義からの必然的な帰結であり、少なくとも この定義されたものがもっているひとつの特質を、 結論として導き出すものである。しかしその定義が名目的であるかぎりは、どの定義からも、 それぞれひとつの特質しか導き出すことができない。 他の特質…

覚書・美の余韻

【余韻 よ-いん】 1 音の鳴り終わったのちに、かすかに残る響き。 また、音が消えたのちも、なお耳に残る響き。 余音。「鐘の音の―が耳もとを去らない」 2 事が終わったあとも残る風情や味わい。「感動の―にひたる」 3 詩文などで言葉に表されていない趣…

話し合うこと

メリーノ「おたがいに話し合っているのがなにについてなのか、 知っていなければいけませんか?それとも、 どんなことでも必ずまちがうのでしょうか?」 エンデ「おたがいに話し合うのは、一体全体なにについて 話し合っているのか、それを知るためにするの…

明暗

光と陰の調和について思う。 光と陰が、分離する時は物の存在性がくっきりとし、 どちらかに傾くとその有無の規定に影響を及ぼす。 光と陰が程よく一体化されて、物と物が共鳴し合えば、 対象性を越えてそこに豊かな空間が現れるのである。東アジアでは、昔…

エンデの美1

美はその本質において超越的なものです。 この此岸の世界からだけでは、 それはまるで把握できないのです。 美は客観化できません。いいかえれば、 美は測ることも計ることも数えることもできないのです。 美が知覚されるためには、 美を知覚できる人間が必…

創造力への覚書1

創造力、creation。 個人の自由な想像力と直観による未来への予見を、 現在において形成し表現しうる人間の精神と肉体の力。 それは、美しさにおいて究極的なものとなる。 現在の延長上にある「改良」は、 創造力を潜在的に用いる「工夫」のひとつである。 …

言葉と沈黙

実際、沈黙は一つの世界として存在している。 そしてこの沈黙の世界性によって、言葉は自己自身を 一つの世界として形成することを学びとる。 このように、沈黙の世界と言葉の世界とは 互いに向かい合って立っているのである。 したがって、言葉は沈黙に対置…

詩と嘘

詩と嘘は同じ物質からできているのです。 虚構(フィクション)という物質。 この物質は、だれが使うかによって、 薬にも毒にもなります。 それはものが見えるようにもするし、 見えなくもする。 詩は現実ではないと称し、 だから現実を生み出す。 嘘は現実と…

エンデの創造力

世界の隠れた側から来るものがすべてそうであるように、 人間の創造力も、測ったり、数えたり、重さをはかること ができず、そのために科学の手がまったくとどかない。 しかし、同時に創造力は重要な科学研究すべての前提条件 でもある。ということは、科学…