言葉と沈黙


 実際、沈黙は一つの世界として存在している。
そしてこの沈黙の世界性によって、言葉は自己自身を
一つの世界として形成することを学びとる。
このように、沈黙の世界と言葉の世界とは
互いに向かい合って立っているのである。

 したがって、言葉は沈黙に対置されていると言わねばならぬ。
しかし、敵対関係をなして対峙しているのではない。
言葉は沈黙の裏面にすぎないのだ。
だからわれわれは、沈黙をとおして言葉を聞くことが出来る。

正しい言葉とは、沈黙の反響に他ならないのである。


ピカート『沈黙の世界』(佐野利勝訳/みずず書房)より抜粋