光と美術

光は視覚世界においてはすべての根源である。
目がある事物を認識するとき、形態や色彩といった
その事物についての情報は、それを取り巻く光に依存している。

さらに光は聖なるものの根源でもあり、多くの文化圏において、
神、真理、理性などの象徴とされた。逆に闇や暗黒は、悪魔や
不正、無知を表すものとなった。

 あらゆる美術も光の存在を前提としている。とくに西洋美術は
光と深く結びつき、光との関係によって西洋美術史がたどれると
いっても過言ではない。

西洋の絵画では、事物を写実的に表現する手段として明暗法が
重視されたが、同時に光と闇のもつ象徴性が放棄されたことはなかった。


(宮下規久朗『フェルメールの光とラ・トゥールの焔 ―「闇」の西洋絵画史』より抜粋)