オレンジをめぐる交渉


 2人の姉妹が、ひとつのオレンジをめぐって口喧嘩をしています。
「半分に分けたら?」と親が言いましたが、2人とも
「ひとつ分が必要なの!」と言って譲りません。

 しかし数分後、話し合いの結果、姉妹で無事に
分け合うことができました。
いったい何が起きたのでしょう?


考える時間:3分間



 実際に京都大学の授業でこの問題を出したところ、
学生たちから以下のような回答が挙がりました。

「姉妹のうちのひとりがオレンジを2つに切って、
 もうひとりが切り分けられたオレンジの好きなほうを
 取ったのでは?」

 なるほど、オレンジを切る人と選ぶ人に分けるわけですね。
たしかにそれならば文句は出そうにありません。
 しかしこの答えだと、結局オレンジを2つに分けることに
なります。あくまで姉妹は「ひとつ分」を主張して譲らないので、
これでは間違いです。

 また、「今回は姉がひとつ分、ぜんぶもらうけれど、つぎは
妹がぜんぶもらえる、と約束した」という回答もありましたが、
それも違います。

 両者ともにひとつ分必要という2人の主張は正しく叶えられて、
交渉は終結しています。


 では答えを言いましょう。
「オレンジの皮と中身を分け合った」

 これが正解です。


 なんで?という声が聞こえてきそうですが、要するに
「2人が求めていたものが違っていた」
ということなんですね。 
 姉はふつうにオレンジを食べたかったのですが、
妹は中身が食べたかったのではなく、オレンジの皮で
マーマレードを作りたかったのです。

 お互いに「ひとつ分が必要なの!」と主張していても、
じつは目的が違っていた。そのことが話し合ったことでわかり、
交渉が妥結したわけです。


 つまり「利害関係が一見、完全にぶつかっているように
見える問題でも、相手と自分、双方の利害をよく分析してみると、
うまく両者のニーズを満たす答えが出てくることがある」
ということを、この問題は示しているのです。



瀧本哲史・著『武器としての交渉思考』より抜粋