額縁―ひとつの美学的試み1

芸術における境界とは、自然物において境界と呼ばれているものとは
まったく意味を異にする。
自然物における境界とは、そのかなたにあるすべてのものとのあいだで、
たえまなく内浸透と外浸透が生じている場所というほどの意味しかない。
しかし芸術における境界とは、外に向かっては無関心と自己防衛を、
内に向かっては統一的結束を同時に実行する無条件の隔絶を意味している。

 額縁が芸術作品にたいして果たしている役割は、この境界のもつ
二重機能を象徴化し強化することだ。
額縁は鑑賞者をも含むあらゆる環境を芸術作品のなかから閉め出し、
芸術作品に距離を与える手助けをする。
この距離のなかにおかれてはじめて芸術作品は美的享受の対象となるのだ。


(『ジンメル・コレクション』「額縁―ひとつの美学的試み」より抜粋)