抽象2

天国について、まともな大人なら、好き勝手にいくらかの具体的イメージを含めながら、全体としては抽象的存在として認識できるが、その実在性は問題にする必要はない。つまり、天国なんて実在しない、と確信している人も、それなりに天国という世界を絵にえがくことはできる。もちろん、その人にとっては、空想の産物として、なのだが。

うまく天国が想像できない人で、且、その実在を信じない人であっても、「天国」は十分に意味を持つ世界である。具体性が相当稀薄であっても、抽象的な実感をいだくことが可能なのは、人間の認識能力の優れた点である。

 抽象的存在とは、意識の中の存在だから、現実に汚されることもないし、いつまでも清潔で、純度が高く、それでいて必要となれば即座に加工が容易にできる。徹底して汚染してしまうことも含めて。

(森本武「負のデザイン」より)