「活人剣」と「創造の場」

 宮本武蔵という剣術家は
「自分が殺されないためには、絶対的に相手よりも
 上の力を備えることが必要だ」という思想を持っていた。
帰納法的に「仮想敵」を置いて、自らを鍛錬していた。


しかし「活人剣」の上泉伊勢守は「自分が作った物語(ドラマ)
の中に相手を引き込み、そのやりとりの上で攻撃をする」
という思想を持っていた。剣術家が一対一で敵と向き合えば、
当然、そこには人対人の「場」ができる。その「場」において
ドラマを演じるのが「活人剣」なのである。

(中略)

 この「活人剣」の思想はまさに「創造の場」においても
当てはまる考え方である。「創造の場」は常に相手(スタッフ)を
「夢」の物語に引き込むことから始まる。

そして、有能なビジネス・プロデューサーは「創造の場」において
スタッフと見事な即興劇を演じていくのだ。会議の場であれ、
プロジェクトを進めていくうえでの会話であれ、スタッフとの
あらゆるコミュニケーションの「場」は「即興劇時空間」である。
その即興劇が素晴らしい内容であればあるほど、
プロジェクトは発展していく。

 もちろん、スタッフは敵ではなく同志だから「活人剣」のように
最終的に闘うわけではない。が、「活人剣」を「活人」の思想に
置き換えて考えてみれば、「人と即興劇を演じながら、その人を
生かしていく」ことの素晴らしさがわかるというものだろう。

これとは逆に、「創造の場」に宮本武蔵の「殺人剣」を持ち込んで
しまった場合、リーダーはスタッフ有無をいわせず、トップダウン
で指令を押しつけることになる。
これではまさに「人材を殺してしまう」ということだ。


(『企画力!ビジネス・プロデューサーになる50の方法』より抜粋)