河鍋狂斎の描画法

 河鍋狂斎(1831-89)は、「浮世絵」の最後期の巨匠の一人だ。
エミール・ギメとフェリックス、レガメーは、
1876年に彼に会っている。しかし注目すべきは、
1887年にあるイギリス人画家が狂斎と対談し、
そのイギリス人画家自身が報告した対談の内容だろう。
狂斎は西洋の画家がモデルにポーズをとらせるというのが
理解できないと言う。もしこのモデルが小鳥ならば、
あちこち動き回って、ポーズをとらせるどころではない。
私なら日がな一日小鳥を見ている、と狂斎は言う。
ある瞬間にふと、描きたいと思っていた姿が見える。
彼は小鳥から目を離し、画帖に
―その数は何百冊にものぼるのだが―、
わずか三本か四本の描線で記憶に残るその姿をスケッチする。
最終的には彼はその姿をはっきりと
記憶から取り出すことができるようになり、
もはや小鳥を見なくてもその姿を再現することができる。
一生涯このような鍛錬をしたおかげで、と彼は言う、
生き生きとした精確な記憶を獲得して、
目にしたものはなんでも思い描くことができるようになった。
なぜなら、彼が写し取るのは
いまこの瞬間に目の前にいるモデルではなく、
彼の精神が蓄積した多くのイメージであるからだ。

クロード・レヴィ=ストロース『みる きく よむ』より抜粋)