ル=グインの想像力3


リアリズムの作家もファンタジーの作家も、莫大な量のことを
語らずにすませ、イメージやメタファーによってぎりぎり
最小限のことを暗示し、読者がその出来事を想像できるように
します。


そして読者はまさにこれをするのです。
物語は共同作業によって成り立つ芸術です。
作家の想像力が読者の想像力と一体となって働き、
読者に呼びかけるのです。共同で作業しよう、と。
書かれていないことを埋め、肉付けをし、
読者自身の経験を作品に持ち込むように、と。


フィクションはカメラではないし、鏡でもありません。
それは中国の墨絵のほうがはるかに似ています ― 数本の線、
数個のしみ、たくさんの何も書かれていない空白。
ここからわたしたちが旅人を作り出すのです。


アーシュラ・K・ル=グイン『ファンタジーと言葉』

青木由紀子訳/岩波書店